INTERVIEW

なぜ福岡では新技術が盛り上がるのか ― コミュニティで加速するイノベーションと人材育成

NECソリューションイノベータ株式会社 シニアプロフェッショナル深田彰さん

NECソリューションイノベータ株式会社でブロックチェーン技術センターのセンター長を務める深田彰さん。ブロックチェーンエバンジェリストとして、ブロックチェーンの可能性を福岡から全国に発信しています。会社の枠を越え、若手や学生の育成にも注力する深田さんに、ブロックチェーンの現在地、そして、福岡ならではのコミュニティの面白さ、人が育ちやすい環境について聞きました。

結局、ブロックチェーンって何ができるの?

--ブロックチェーンって実はよく分からなくて。一体何ができるのでしょうか?

ブロックチェーンはデータベースの一種で、管理者が存在しない分散台帳技術という点が、従来のシステムと大きく異なるポイントです。不正や改ざんを防ぐ仕組みを備えていることから、さまざまな分野で活用が始まっています。

例えば、メーカーの品質保証。その製品がいつ、どこで、誰によって作られたのかといった情報をブロックチェーンに格納することで偽装を防止し、製品価値を高めています。他にも、自治体の証明書電子発行の実証実験や、脱炭素社会の実現に向けたカーボンクレジットの創出など、業種や領域を問わず、ブロックチェーンを活用した取り組みが始まっています。

ただ、今のところお客さまからのご相談で多いのは、「ブロックチェーンを使って何かやりたいけれど、どう使えばいいかが分からない」、「経営層からブロックチェーンを使って何かやれと言われているけれど、一体何をすれば」というものです。ですから今は、実際の適用事例や今後の可能性などをお伝えし、その会社の課題解決にブロックチェーンをどう生かせるのか一緒に考えるところから始めています。

福岡でブロックチェーンが盛り上がる理由

--ところで、なぜ福岡でブロックチェーンを?

それはよく聞かれるのですが、福岡には、ブロックチェーンの会社がたくさんあるんですよ。福岡市はスタートアップ支援が充実していて、エンジニアコミュニティも盛んです。起業しやすく、新しい技術やサービスが育ちやすい土壌があるんです。

福岡の面白いところは、ブロックチェーンの上で動くサービスというよりも、ブロックチェーンそのものを作っている会社が多いということです。ですから、ブロックチェーンのエンジニア同士が集まると、話題がかなりマニアックになります(笑)

--そうした集まりも頻繁に開催されているのですか?

福岡はコンパクトシティと言われていて、ブロックチェーンの会社も集まりやすいところにあり、民間有志で「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」というコミュニティも生まれています。ここでは、エンジニア向けはもちろん、非エンジニア向けのブロックチェーン勉強会も開催しているんですよ。一口にブロックチェーンといってもいろいろな種類があります。みんなで情報共有しながらブロックチェーンを盛り上げていこうとしているんです。

働く場所は自由に選べる時代へ

--NECソリューションイノベータは、福岡の拠点として、2022年1月から天神ビジネスセンターを活用されています。素敵なオフィスですね。

そうなんです。福岡の街を一望できて、博多湾まできれいに見えますよ。移転を機に、席はフリーアドレスになりました。その日の気分や業務に合わせて席を選べるようになったので、これまでのオフィスではフロアが違ってあまり顔を合わせることがなかった同僚とも、よく話すようになりました。コミュニケーションの活性化やクリエイティビティといった面で、非常に良い影響が生まれていると思います。

ただ、コロナ禍でテレワークが浸透し、出社する機会は減っています。以前は当社も一か所集まって働くのが一般的で、単身赴任もありました。今は私のチームメンバーも、名古屋や静岡などライフスタイルに合わせて働く場所を自由に選んでいます。

--ものすごく大きな変化ですね!

特に単身赴任がなくなったことで、ワークライフバランスはかなり良くなったのではないでしょうか。ただ、そのぶん日々のコミュニケーションが重要になってきますので、SlackやMicrosoft Teamsを使って密にコミュニケーションを取り合って働いています。

私たちのチームでは、テレワークを機に朝会を始めました。集まれる人だけでも一日一回は集まろうかと。朝会では、仕事の進捗確認というよりも、ブロックチェーン関連のニュースやセミナーの情報などを共有しています。この分野の流れは速いですから、少し情報収集を怠るとたちまち置いて行かれてしまいます。しっかりアンテナを張って知識をアップデートし続ける必要があるんです。

会社としても、1年間で12日分は必ず自己研鑽に当てようという制度を設けています。有償セミナーを受講した場合は教育費が出るなど、サポート体制も整っています。2023年はまだ始まったばかりですが、私のチームでは、すでに12日分を遥かに超えて自己研鑽をしているメンバーがたくさんいます。

エンジニアの街・福岡の実態とは

--福岡でエンジニアが働くメリットは何ですか?

個人的には、空港が近くていいですね。東京には1時間半、北海道には2時間半で行けるので不便さを感じません。また、さまざまな領域のエンジニアが一堂に会していて、コミュニティ活動も盛んです。福岡では、エンジニアコミュニティがイノベーションを加速させる役割を担っていると思います。

--コミュニティに参加するメリットは何でしょうか。

ブロックチェーンをはじめ新しい技術は、本やネットでは情報収集が追いつかない部分も多々あります。コミュニティに参加すると、その分野の専門家が優しく教えてくれます。ブロックチェーン本の著者に直接質問できるとか、そういうところもいいですね。東京から離れているから不利だとかいうことは全くないんです。確かに、コロナ前までは東京でしか開催されないセミナーもありましたが、今はライブ配信で見れたりします。東京じゃないと…ということは、意外に少ないんですよね。

また、福岡のコミュニティの特徴として、ブロックチェーンのような技術がテーマであっても、ベンチャー企業やエンジニアだけではなく、いろんな会社や職種の人が顔を出してくれるんです。「今はよく分からないけれど、将来的には何かに使えるんじゃないか」とか、アンテナの高い方が積極的に参加してくれます。分からないことがあればみんなでフォローしていくような、あたたかさを感じます。
ブロックチェーンに限らず、どのコミュニティもそんな感じですね。誰でもウェルカムなんです。

ハッカソンやコンテストで学生やエンジニアの育成をサポート

--深田さんはアプリコンテストでメンターを務められているんですね。

はい。「九州アプリチャレンジ・キャラバン(通称:チャレキャラ)」で、メンターとして困ったときの壁打ち相手をしています。エンジニアフレンドリーシティ福岡のハッカソン「Engineer Driven Day」には同僚のエンジニアたちがメンターとして参加しています。

例えば、チャレキャラは、エンジニアを目指す学生のためのアプリコンテストです。仲間とともに約半年かけてアプリを開発し、その大変さや面白さ、達成感を味わうことを目的としています。学生のうちから良い経験を積める機会を作ることで、エンジニアを増やしていきたいんです。

チャレキャラに参加している学生は、何かを創り出すことに対してモチベーションが高く、好奇心旺盛です。キャリア戦略という観点では、在学中から手を動かして実績を作ってきた学生と、そうでない学生との間ではやはり差が出てきますよね。今後は後者をどう引き上げてくるかが焦点になってくると思います。

--学生からキャリア相談をされたりもするのですか?

そうですね。悩んでいる学生には、「こういうところに力を入れるといいよ」とか「ここをもっとアピールするといいんじゃないかな」といったアドバイスをさせていただいています。チャレキャラに参加すること自体も結構良いアピールになっているんですよね。チームを組んで半年間でアプリを作っていくので、学生のうちからチームビルディングやプロジェクトマネジメントを経験できるんです。

--なるほど、学生にとってはエンジニアとして働きだしてからの自分が具体的にイメージできますね。

コンテスト直前になると、うまくいかないチームがたくさん出てきます。ここでは、どうしたらまた軌道に乗せられるのか、どうすれば無事完成させることができるのか、学生たちの壁打ち相手をしています。エンジニア志望の学生たちは基本的に技術が好きなので、技術面のスキルアップは一人でもできたりするのです。でも、チーム運営やプロジェクトマネジメントに関しては、一人ではなかなか身につけられないもの。そんなところで、私たちのような経験者がサポートできればと思っています。

大切なのは、自己研鑽と自己投資

--深田さんご自身のキャリアについては、どう考えていらっしゃるんですか?

実は私、あと2年で定年を迎えるんです。エンジニアの育成は、定年後も続けていきたいと思っています。先ほどお伝えした学生向けの活動以外にも、今は「Kids Code Club」主催の「英語で学ぶコンピュータ・サイエンス」で子供向けに、英語を使って子どもたちにプログラミングの面白さを伝える活動のお手伝いもしています。私の経験を生かせるところがあれば、どんどん活動を広げていきたいです。

--忙しくなりますね。深田さんの活躍を見て、ブロックチェーンを学び始める若手や学生もいると思います。そういう方々に向けてメッセージをお願いします。

大切なのは、自己研鑽と自己投資です。機材への投資もその一つです。オンラインサロンも、いくつか有償のものを契約して勉強しています。

--忙しくてなかなか自己研鑽ができないという場合は……?

私もスケジュールが埋まって勉強時間が取れないときがあります。でも、時間は作るものなんですよね。仕事はどんどん増えていくもの。時間が空いたら勉強しようと思っているうちは、永久に勉強できません。

特にITの領域は変化が激しく、少し怠っただけでもすぐに置いていかれてしまいます。忙しくてなかなか思い通りにいかないこともありますが、それでも勉強しないと成長できない難しい世界です。自己研鑽と自己投資、ぜひ考えてみてください。

--肝に銘じます!

<深田彰(ふかた・あきら)さんプロフィール>
福岡県生まれ
1987年: NECソフトウェア九州株式会社に入社
PC-9800シリーズのWindows開発、Nシリーズ携帯の開発を歴任
2014年: NECソフトウェアグループが合併し、NECソリューションイノベータ株式会社に社名変更
2016年: 現在の業務であるブロックチェーンの業務に従事
2021年: 社内にブロックチェーン技術センターを設立。センター長に就任。
現在、4人の孫がいるおじいちゃん

ライター 酒井真弓

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