INTERVIEW

【EFC AWARD受賞企業インタビュー】圧倒的な熱量を、300人で作り上げる仕組みとは。CC2松山流、人とチームの育て方

株式会社サイバーコネクトツー 代表取締役松山洋さん

福岡発のゲーム会社として全国的な知名度を誇る、株式会社サイバーコネクトツー(CC2)。2021年のEFC AWARDでも、スタッフ育成体制の充実が評価され、企業部門賞を受賞しました。2022年9月9日にエンジニアカフェで開催された「Meetup EFC」では、代表の松山洋さんをお迎えし、公開インタビューを実施。松山さんをはじめ、CC2のエンジニア、クリエイターのみなさんが熱量をどう維持しながら、ヒット作を連発しているのかに迫りました。

CC2松山さん公開インタビューの様子はこちら(ダイジェスト動画)

EFC AWARD 2022 (10/17~30 いいね!受付中)

少年ジャンプの発売日を心待ちにする51歳

--本日はよろしくお願いします。まずは御社の業務内容とこれまでの歩みを、改めて教えていただけますか。

松山: サイバーコネクトツーは、1996年に設立したゲーム会社です。当時はPlayStationが出て、ゲーム業界の大きな変革期でした。そこで家庭用ゲームソフトの開発をやろうと、九州産業大学の仲間たち10 人で起業して作った会社です。ゲーム会社には、ゲームの販売元であるパブリッシャーと、実際にゲームの開発・制作を行うデベロッパーとに分けられます。うちは、デベロッパー専門。少年漫画を題材にしたゲームやオリジナルタイトルなど、累計3800万本を出荷しています。

--他のデベロッパーと違う、特徴は何でしょうか?

松山: うちは「この版権を利用してゲームを作ってくれませんか?」と先方からオファーを受けて開発することはなく、すべて自社提案で仕事をしてきました。『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズや「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」、その他の人気ソフトもすべて自主提案して、実現してきたものです。自分たちが本当にやりたいことをやるために集まった、専門集団なんです。

--特に漫画作品のゲーム化に強みがある、と。

松山: ええ、私のイチバンの得意技は、ゲームでも経営でもなくて、「週刊少年ジャンプ」です。現在51歳なんですが、毎週月曜日の少年ジャンプ発売が楽しみでしょうがない。好きが高じて仕事になり、集英社の方ともよくお会いしますが、「松山さんはジャンプに詳し過ぎてもう話したくない」と言われるぐらいです(笑)。ゲーム会社ですが、『チェイサーゲーム』というオリジナルの漫画作品も作っていて、2022年の秋にはドラマ化もされました。面白いと思うものしかやらないのがポリシーですね。

「好き」の気持ちが本物を作る

--では今日の本題に入っていきたいと思います。まずは松山さんがスタッフの教育について、どのような考え方や方針をお持ちなのか、教えてください。

松山: うちは全社員でざっくり300人、福岡本社だけでも200人のスタッフを抱えています。男女比は7:3で、業界内では女性比率が特に高い。ゲーム業界というと、不眠不休で働くイメージがあるかもしれませんが、それは20年前の話で、実際はそんなことでは長続きしません。ゲーム開発も長期化していて、1本にだいたい3年はかかります。だから、長期スパンで戦うために、コンスタントに力を発揮できるような環境づくりを第一に考えています。

社内にはたくさんの制度があり、公式サイトにまとめていますが、これらも一角でしかなくて、ルールは日々生まれて消えています。「このルール、なんでこうなってるんですか?」とスタッフが一人でも言い出したら、既にルールとしては機能していない。伝わってないし、理解されてないってことですからね。そういうのは今すぐ変えた方がいい。「これっておかしくないですか?」に耳を傾ける。それを言える雰囲気にするために、風通しの良い組織づくりを目指しています。

--充実した社内ライブラリもあると聞きました。

松山: はい。映画やアニメ、特撮モノなどのDVDやBlu-rayが1万本以上。漫画雑誌は60冊を定期購読し、単行本は6000冊。NetflixとAmazon primeは、会費の半額を会社で支給しています。なぜここまでするのかというと、「知りません、見てません」という言い訳をさせないためなんです。300人も社員がいて、歳の差も20以上ある場合だってザラ。見てきたものが全然違うんですが、その差は埋めないと仕事にならない。そのために、ライブラリで見られるようにしているんです。今日(9月9日)は有給を取得してる社員がやたらと多いんですが、それは『スプラトゥーン3』の発売日だから。みんな、仕事してる場合じゃないんですよ(笑)。それぐらいの熱意がないと、自分たちが作り手に回った時に良いものにできないと思いますから。

--やはりエンジニアやクリエイターの皆さんは、何かしら「好き」を突き詰めている方が多いんですか?

松山: そうですね。ゲームだけじゃなく、音楽やVTuberなど興味の方向はそれぞれですけど、熱中できるものがないとできない仕事だと思います。辞めていく人の大半が、「もうこれ以上ついていけません」「正直ここまでだとは思いませんでした」という反応です。普通じゃないことをしたくて世界中から入社して来るのがうちの会社ですし、エンタメの業界で勝ち続けるならそこは外せませんね。

--その「好き」の熱量が、作品にどう反映されるんでしょうか?

松山: 例えばスタジオジブリ作品の『天空の城ラピュタ』は、金曜ロードショーでもう17回も放送されています。「またやるの?」と思いながらも、結局は見てしまう。本物とは、こういうことだと思うんです。本物に到達するには、妥協せずに作るのはもちろんですし、たくさんの作品を見て、感動することが大事。『君の名は。』の何が素晴らしかったのか、今回の『ONE PIECE FILM RED』がなぜ興行収入100億円を超えたのか。そんな話をつまみに、延々と酒を飲めるようなメンバーが集まっているんです。

--そういう学びがあって、御社でもヒット作を連発できるわけですね。

松山: ええ。うちはゲームを作るとき、制作段階ではずっと赤字です。納期や予算よりもクオリティを優先して、資金を使い果たしてしまうからです。ようやく完成にこぎつけても、その時点ではまだ赤字ですが、どこかで損益分岐を超える瞬間が必ずやってきます。うちで作ったものは長く売れ続けて、現在では利益につながっています。それは、やっぱり細部まで妥協せずに作ってきたからなんですね。パブリッシャー側からも、そういう評価を得ています。

自ら発信して、自ら盛り上げる

--採用や入社後の研修について教えてください。

松山: 例えば新社会人で、これから仕事を始めるって時は、何がわからないのかさえわからない状態。だからまずはインプットするしかないと思ってます。今年の新入社員は20人いますが、彼らの1年分は教育のための経費と考えて、人工(にんく)に換算しません。研修も手厚く、6ヶ月はみっちりやります。「背中を見て覚えなさい」という時代もありましたが、右も左もわからないままに現場に入っても、中間管理職が悲鳴を上げちゃいますから。

--新人に対してよくかける言葉はありますか?

松山: 新人に限らず、スタッフには「ピンチとチャンスは同時にやってくる」という話をしています。チャンスを単なるラッキーだと捉えるのは間違い。実際には、ピンチの裏側がチャンスなんですよね。高校野球マンガ『バトルスタディーズ』で、「ピンチって、日本語でなんて言うか知ってるか?」というシーンがあるんです。「ピンチは、見せ場や」と。めちゃくちゃ痺れますよね? うちはエンタメの会社だから、こんなかっこいいセリフを地でいくような存在になっていきたい。その先導役として、私がいろんなところに出ていって、しゃべってるんです。

--確かに松山さんはイベント登壇も多いですし、ネット上でも積極的に情報発信をされていますね。

松山: うちは開発会社なのに、全スタッフの約10%である30人が業務部というバックオフィス部門にいます。宣伝担当が過剰なぐらい多いんです。よく「福岡のゲーム業界は盛り上がってていいですね」と言われますが、自然と盛り上がるわけではなく、私たちが盛り上げているんです! 代表の私が、TikTokまでやってますから(笑)。

--GFF(福岡ゲーム産業振興機構)やCEDEC+KYUSHU(ゲーム開発者向け技術交流イベント)など、福岡のクリエイティブシーンに長年貢献していただいていますね。福岡の街はゲームクリエイターやエンジニアにとって働きやすい街でしょうか?

松山: 空港が近い、地代家賃は東京と比べ物にならないぐらい安いなど、私たちが福岡にい続けるメリットは十分にあります。でもそれだけじゃなくて、「福岡がベスト」と積極的に発信していくことも、意識しています。発信するところに、情報は集まってきますから。福岡が拠点の企業なら、福岡にいることをメリットにするような言い方や発信をもっと考えてしていくべきだと思いますよ。

--福岡のエンジニアシーンをより良くしていくためには、どうしたらいいとお考えですか?

松山: 今日のこのイベントのような、他社や他業種と交流する機会を多くしていくことだと思います。組織って、中に居続けるとものの見方が偏ってきます。制作の会社だと「うちの会社が世界でいちばん効率が悪いやり方をしてる」と不満を漏らしがちですが、よそを知ると、似たようなことで悩んでいたりします。横のつながりや上下のつながりを増やせば、もっと客観的になれる。代表の務めは外とのパイプを作ることだと思っているので、私ほどしゃべり過ぎなくてもいいですが(笑)、つながりを広げていってほしいですね。

--松山さんの熱量を直に感じる、有意義な会になりました。本日はどうもありがとうございました。

<松山洋 (まつやま・ひろし) さんプロフィール>
1970年生まれ、福岡市出身。
九州産業大学卒業後、大学時代の同級生から誘いを受け1996年にサイバーコネクト設立。
2001年に株式会社サイバーコネクトツーに社名変更し、代表取締役に就任。
代表兼ディレクターとして『.hack』シリーズ、『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズ、『ドラゴンボールZ KAKAROT』をはじめとした人気ゲームタイトルのほか、ゲーム業界の今がわかる漫画『チェイサーゲーム』の原作も手がけるなど、多彩な才能を発揮する。著書に『熱狂する現場の作り方』他。

株式会社サイバーコネクトツー
https://www.cc2.co.jp/

取材・文: 佐藤渉、写真: (株)サイバーコネクトツー提供、EFC事務局撮影

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