INTERVIEW

勉強会はパーティーだ! ビール片手に楽しくGo言語を学ぶコミュニティ「Fukuoka.go」

Fukuoka.go 主催/GMOペパボ株式会社三宅悠介さん

Fukuoka.go 主催/GMOペパボ株式会社小田知央さん

Fukuoka.go 主催/株式会社Fusic清家史郎さん

 

公開日:2020.8.26

Googleが開発したプログラミング言語「Go」。実行速度が速いことや言語仕様がシンプルであることから、Webのサーバーサイドのアプリケーション開発やツール開発で重用されています。開発されて10年以上経った今も大規模なカンファレンスが開催されるなど、常に高い関心を集める言語のひとつでもあります。

そのGo言語を楽しく学ぶために2014年に福岡で立ち上げられたのが、Fukuoka.go。おしゃれな空間で音楽や食事を楽しみながら、登壇者の発表を聞くスタイルでの勉強会を数ヶ月に一度開き、東京や大阪、岡山など他地域のコミュニティとの交流も積極的に行っています。

主催として精力的に活動を続けてきた3人のエンジニアに、コミュニティ立ち上げの経緯やGo言語の魅力、現在コロナの影響でオンライン開催を余儀なくされている中での課題などを伺いました。

Go言語で盛り上がれる場所を福岡で作りたかった

本日はよろしくお願いいたします。まずは、皆さんのお仕事の内容を教えてください。

小田:僕は、GMOペパボ株式会社のシニアエンジニアリングリードというポジションについています。エンジニアの配置や評価など、開発や運用チーム全体の生産性向上のためのマネジメントが主な業務です。

三宅:GMOペパボ株式会社の研究所で研究開発を担当しています。主な研究内容は、インターネットサービスの自律適応です。データをもとにユーザーの要求に適応していくシステムを構築することに面白さを感じ、研究員になりました。

清家:株式会社Fusicの技術チームのリーダーとして、Webシステムの提案、構築、運用を担当しています。また、カンファレンスなどの登壇を通じて会社の名を知ってもらう「エバンジェリスト」という役職にもついています。

皆さんが主催されているFukuoka.goはGo言語をテーマにしたコミュニティですが、Go言語の特徴とは何ですか?

三宅:並行処理に対して、安心かつ簡単にコードを書けるのが一番の特徴だと思います。並行処理によって起こりやすいミスなどを言語がサポートしてくれるし、僕がやりたいことに対して最短でたどり着ける言語なので、普段からよく使っています。パフォーマンスが安定しているのも良いですね。

小田:型がある言語なので、プログラムが想定通り動作することを担保されています。だからミスを防ぎやすく、メンテナンスもしやすい。コンパイル(コードを実行可能な形式に変換すること)の時点で、実行不可能なコードが分かるのはチーム開発においてもメリットが大きいです。

清家:普段の業務では別の言語を使っているのですが、エンジニアとして成長するためには型がある言語を使えないと、という危機感がありました。Go言語は、OSSでの公開プログラムが多いので手を出しやすかったです。

Fukuoka.goはどういう経緯で始められたのですか?

三宅:2014年に東京のGoCon(Go Conference。Go言語をテーマにしたカンファレンス)で自作したGo言語のツールを発表したんです。多くのフィードバックや刺激を受けて、「言語をテーマに盛りあがれるのは素晴らしい。これを福岡でもやりたい!」と。同じ会社で働いている小田さんに声をかけたら一緒にやってくれることになりました。Fukuoka.goの第0回と称してGoConの報告会を行ったのが最初ですね。

立ち上げ以降、活動は順調でしたか?

小田:なかなか人が集まらなくて苦労しましたね。半年ほど活動しましたが、心が折れて再開までの間が2年ほど空きました。

三宅:その頃は、「Go言語の人口を福岡で増やすんだ」と高い志でやっていたんです。僕の発表内容もその視点で初学者向けに役立つものを話していました。ただ、その間にも自分の学習は進むので、発表内容と自分の関心がある内容が少しづつ解離してしまって、発表していても面白くないんですね。もちろん新しい発見や理解を深める機会にもなっていましたが、いつの間にか義務感を感じるようになって自分のモチベーションは下がるし、参加者も減るしで辛かったなぁ。

Fukuoka.go

左から、三宅悠介さん、清家史郎さん、小田知央さん。三人とも大学の専攻はITと無縁だったが、ソフトウェアでのものづくりやプログラミングに惹かれて業界に入った。

勉強会は、Let’s パーティー!のテンションで

2017年の春に活動を再開されますが、停滞していた状況が変わる転機のようなものがあったのでしょうか?

三宅:現在Fukuoka.goのメンバーの一人であるエンジニアの大谷祐司さんが、東京から移住してきたんです。Goにも勉強会にも興味があるということでお会いして、運営などの話をしているうちに、「立ち上げ当初は気合が空回りして、あまり楽しく運営できてなかったな」と反省しました。そこで、次からは「楽しさ最優先でいこう」「自分たちが好きな発表しかしない、なんなら登壇枠は僕たちが埋める!」という意気込みでやるようになりました。現在は、3~4ヶ月に一度のペースで活動しています。不思議なもので、自分たちが好きに楽しみながらやっていたら参加者も増えていきました。

自分たちが楽しむことが大切なんですね。

三宅:活動再開後、小田さんが「勉強会をパーティーにする!」と言って、料理や音楽にこだわるようになったんです。音楽が流れるおしゃれな会場で飲み食いしながら、発表を聞けるようにしたら、それに惹かれてやってきた人もいましたね(笑)このパーティー感は、他のコミュニティとは違う特徴かもしれません。

小田:真面目にシーンとしているより、ワイワイガヤガヤとしているほうが、リラックスした雰囲気になり雑談が生まれやすい。そうすると、登壇後の質問や会話が活発になるんですよ。

清家:勉強会が始まった瞬間から、楽しさを作れてますよね。

三宅:小田さんが本当に力を入れてますからね。めずらしいクラフトビールを揃えたり、音響やライティングこだわったり(笑)

聞いているだけで楽しそうです。活動を継続するうえで大切にしていることはなんですか?

三宅:とにかく地道に活動を続けていくことです。続けることで色んな人に知ってもらえて、影響が広がっていくので。それには、主催側が楽しむことや負担が大きくなりすぎないことが大事だと思います。

それぞれ仕事が忙しい時期があるので、運営の役割はあえて決めずに誰かが「やりたい」と言い出したら手伝える人が手伝うというスタンスです。

小田:活動の上で話し合うべきことはSlackで議論しますが、全員が安心して発言できるように、どんな意見も必ず受け止めます。みんな前向きに考えているから、たいてい納得する結論に落ち着きますね。

それから名前にGoとつけてはいますが、発表内容がGo言語に固執しないようにしています。エンジニアなら誰しも広義の技術を学びたい思いがありますから。たまにGoを使ったコードが一行ぐらいしかない発表もありますが、それもアリだと思っています(笑)

福岡でコミュニティ活動をされるうえで感じているメリットなどはありますか?

三宅:コミュニティ全般に言えることですが、個人で活動するよりもはるかに大きなスケールで多くの方とのつながりが生まれます。カンファレンスで出会った人と一緒に何かやりたいなと思ったときに、コミュニティを運営していると声をかけやすいです。

それから「福岡」という言葉をコミュニティ名に入れやすい規模感の都市なのがいいですよね。九州内や関西の勉強会と相互発表をすることもあるのですが、そういう時につながりやすいのはあると思います。

Fukuoka.go

今年1月のEFCフェスティバルの授賞式にて。Fukuoka.goは活動の継続性、他地域との積極的な交流が評価されコミュニティ部門を受賞した。

「登壇枠」を利用して、新しい出会いを生み出したい

現在、コロナウイルス流行の影響でこれまでのように一ヶ所に集まっての活動が難しくなっています。どのように対応されていますか?

三宅:3月にオンライン勉強会を実施しました。形式は、発表者がそれぞれの自宅で発表している様子をYouTubeで生配信。画面上に視聴者がTwitterに投稿したハッシュタグ付きコメントを表示しました。ただ、発表者からすると視聴者の表情が見えないのでやりづらそうでした。

清家:聞いている人の表情を読み取って説明を補足するなど、話さなくても双方向のコミュニケーションをとれるのがリアルイベントの良さですよね。

表情などのレスポンスは不足する一方、これまで参加できなかった地域の人にとってはハードルが下がるのもオンラインの特徴のひとつですね。

三宅:東京の人が配信を見てTwitterでコメントをくれました。視聴者数も5~60人と普段の2倍。

7月の勉強会は、登壇者の半分以上が福岡以外の人です。参加者もボーダレスになっているのを感じます。

Fukuoka.go

7月に行われたオンライン勉強会にて。配信がスムーズに行えるように入念に機材のテストをしている様子。

オンライン勉強会をやる中で課題に感じることはありますか?

三宅:オンラインは元々あった関係を継続することに長けているけど、新しい関係を作るのが難しいとも言われます。本来、コミュニティは後者の役割ももっているべきですが、オンラインの距離感だと、初対面である相手の様子を伺いながら話しかけるというのが難しい。

新しい交流を生み出す試みはありますか?

三宅:登壇枠は元々人気があるし、発表の場を求めている人は多いので「今まで発表したことがない人限定の枠」「他のコミュニティからのゲスト枠」を作ろうかなと。発表が話のネタになるから懇親会も行きやすくなるじゃないですか。

フィードバックを求めて参加する人も増えそうですね。今後の展望を教えてください。

三宅:発表者がフィードバックや情報を得られるのがコミュニティの良いところだと思っています。「この発表を50人が聞いている!」という充足感が得られるようにしたいですね。

これからは、各コミュニティの特色が今まで以上に出てくると思います。昨年の夏に福岡で150人以上が参加するGoConを開催し、多くの発表や意見を聞けてとても勉強になりました。大きいイベントもまたやりたいですね。

小田:今後の理想はリアルとオンラインのハイブリット。集まれる人たちで実際にパーティーをしながら発表もして、その様子をオンラインで流して見てもらうとか(笑)

清家:集まれなくても、みんなで同じものを食べるだけで一体感が出るかもしれませんね。

三宅:Uber Eatsで、みんな同じ料理を頼みますか(笑)

これからの活動も楽しみです! 本日はありがとうございました。

 

【レポート】
7月14日、オンライン勉強会の配信会場に伺いました。この日のテーマは、Go言語を使ったツールやシステムについて。開始前のリハーサルでは、配信がスムーズに行えるように入念に機材のテスト。配信が始まると、今度は音声や映像に乱れがないか気を配ります。緊張感はありますが、進行役の三宅さんが自然な流れを作っているおかげで居心地のいい空間がオンラインでも共有できていました。参加者は約80人。エンジニアのほか、大学生の参加者もいました。配信終了後には、主催の3人で今回の良かった点、反省点を自然と話し合う姿も見られ、形式を問わず自分たちのスタイルでコミュニティ活動を継続していくというエネルギーを感じました。 

 

<小田知央(おだ・ともひさ)さんプロフィール>
大学は法学部を卒業し法律事務所に従事するが、インターネットが好きでWebデザイナーに転身し、のちにWebアプリケーションエンジニアとしてのキャリアを積む。2009年にGMOペパボ株式会社に入社し、2014年に「Fukuoka.go」を立ち上げる。

<三宅悠介(みやけ・ゆうすけ)さんプロフィール>
大学卒業後、地元福岡のSIer勤務を経て、2012年より株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ株式会社)に勤務。サービスの運用開発の傍ら、ログ活用基盤の構築に取り組み、サービスを動的に改善していくための仕組みづくりと機械学習に興味を持つ。2017年より同社の研究職へ従事、情報システムの自律適応等の研究に取り組む。
コミュニティ活動として地域言語コミュニティFukuoka.goの主催を務める。

<清家史郎(せいけ・しろう)さんプロフィール>
大学卒業後、ちょうどよい都会である福岡に就職
受託開発会社、プロダクト開発会社を経験後、2016年に株式会社Fusicに入社
自ら受託開発を行いながら、カンファレンスなどの登壇を通じて会社の名を知ってもらうエバンジェリストとして積極的にコミュニティに関わっている。
その活動の中で言語にも、コミュニティにも魅力を感じ、2019年にFukuoka.goにジョイン

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取材・文:立野由利子、写真:EFC福岡

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