INTERVIEW

子どもの未来は社会の未来。福岡のシビックテックを盛り上げる、ママエンジニア

Code for Fukuoka 代表 /株式会社シティアスコム 德永 美紗さん

エンジニアフレンドリーシティ福岡アワード コミュニティ部門を受賞されたCode for Fukuoka 代表の德永 美紗さんのインタビューです。

公開日:2020.3.10


行政に任せっきりではなく、市民自らが考え、ICTの力で社会や地域の課題を解決する“シビックテック(Civic Tech)”。
米国発祥であるこの考え方は、日本においても東日本大震災以降、草の根的に広がり、全国に活動グループが立ち上がりました。
ここ福岡で、シビックテックグループCode for Fukuokaの代表を務めるのは、德永 美紗さん。
彼女は株式会社シティアスコムに勤めるエンジニアでもあります。2児の母であり、子育ての真っ只中にいる德永さんの、エンジニアらしい生き方とは。
これまでの歩みや、Code for Fukuokaにおける活動、今後の展望について語っていただきました。

 

数学にどっぷり浸かった学生時代

本日はよろしくお願いします。まずは德永さんのこれまでの歩みを聞かせてください。大学では数理学を専攻されたとか。数学がお好きなんですか?

德永 はい、小さい頃から大好きでしたね。小中と通った塾の先生方からも、私は数学が得意だと言われ続けました。
「オールナイト数学」という、塾の教室対抗で一晩中数学を解き続ける企画にも出ていたほどでして。

「オールナイト数学」……苦手な人にとっては恐ろしいイベントですね。大学ではどんな勉強をしたんでしょうか?

德永 先生方からの勧めもあり、大学は推薦枠で理学部数学科に進学しました。
解析や幾何学などいろいろな分野がある中で、私は数を抽象的に扱う「数論」を専攻しました。数の規則を考え、どういう定理につながるかを考える学問です。そのまま大学院まで進みました。

ということは、研究者の道をいかれるつもりだったんですか?

德永 ええ、そのまま研究の世界を進む道も確かにあったんですが、福岡を離れたくなかったし、ビジネスにおけるチーム開発を経験したいという思いもありました。
大学院を出てから、教授のアシスタントとして1年半ほど働いていた時、その教授がNPO事業として行っていた視覚障がい者のための点訳ソフトの開発をサポートしたり、ロゴやWebページのデザインも経験して。実社会と関わる形で自分の能力を活かしていきたいと思い、福岡の会社をいくつか受けて、シティアスコムに就職しました。

 そこまで德永さんがのめり込んだ数学の魅力って、一体なんなのでしょう?

德永 それが、なかなか説明しづらいんです……。しいていうなら、バラバラに見えていたものが、問題を解くことでひとつにつながる、その時の快感ですかね。
複雑な数式もベクトルといった記号も、問題を解いていくことで、ある時パッと全てがひとつの世界に結びつく。それが数学の魅力だと思っています。

 

子どもが生まれて、世の中の問題を放っておけなくなった

シティアスコムでの德永さんのお仕事について教えてください。

德永 現在は「デジタルトランスフォーメーション推進部」という部署で、クラウドやAIなど最新技術を使って新しいサービスを開発する業務に携わっています。
新しい技術の勉強をしながら、手探りで可能性を探っているところです。

社外活動として、市民団体Code for Fukuokaの代表という顔もお持ちですよね。どんな経緯で始められたんでしょうか?

德永 社外のイベントや勉強会に参加していた時に、前代表の方に声をかけていただいたことがきっかけです。というのも、私はシティアスコムに入社して4年目で第1子を、2013年には第2子を生んでいるのですが、短時間勤務になり、同僚より圧倒的に少ない時間しか働いていない状況に焦りを感じてしまって。
なにか違うスキルも身につけないと置いていかれるという危機感から、社外の勉強会に行くようになり、出会いにつながりました。

働き方に制約ができたことで、逆に世界が広がったわけですね。

德永 そうですね。子どもが生まれて、価値観や視野が大きく変わりました。
それまでは自分の見える範囲の世界しか見ていなかったのが、子どもができてからは「この子の未来や、この子の子どもが生きる未来は大丈夫?」と考えるようになりました。
自分の中で未来がつながって見えて、世の中で問題だと思うことを放っておけなくなっちゃったんです(笑)

 

遊具で検索できる、公園ナビアプリ

Code for Fukuokaではどういった活動をしているのでしょう?

德永 Code for Fukuokaは、市民自身がテクノロジーをツールとして使いながら、課題を持つ当事者と一緒に考え、一緒に解決策を作る活動をしています。
今現在は、福岡市の公園データを整備してアプリにしようと頑張っています。

公園のデータですか?

德永 ええ。子を持つ親ならわかると思うんですが、子どもにとって公園の広さや遊具がどんなものかは、とっても大事なこと。
「あの遊具で遊びたい」と思った時に、遊具別に公園が検索できれば便利だなと思ったんです。
でも、現状は整理された情報がない。そこで去年、福岡市に掛け合って公園と遊具の台帳を公開していただき、そこから元となるデータを整えているんです。

それは面白い取り組みですね。

德永 公園って、住所がないんです。だから、迷わないように地図機能もつけて、実用的にしたいなと。
ママ目線とパパ目線では行きたい公園も変わってくるので、パパママ別におすすめの公園などもデータ化して盛り込めるといいですよね。
実現できれば、遊具のメンテナンスや安全管理などにも役立てていただけると思います。

市民が主体的に動いて、暮らしを便利にするテクノロジーを使う。これぞシビックテックですね。

德永 はい。今後は行政も人手不足で、細かいところにまで手が回らない状況が増えてくると思います。
市民が「自分たちの住む地域をより便利にしたい」と思うのは自然なことなので、その手伝いがCode for Fukuokaでできるといいなと思っています。福岡市にも必要なデータをオープンデータ化してもらい、積極的にご協力いただいています。

 

シビックテック、グラレコ、編み物……興味が止まらない

EFCアワード受賞されましたが、お気持ちを聞かせてください

他薦をいただいてエントリーしたのですが、それだけでもありがたかったのに受賞して本当にうれしいです。
授賞式でのプレゼンでCode for Fukuokaやシビックテックの話をしたのですが、聞いていた方から シビックテック(Civic Tech) っていい言葉だねというお言葉もいただいて、受賞をきっかけにもっとシビックテックが広まればいいなと思っています。

エンジニアにとって、福岡は働きやすい街でしょうか?

德永 街としての規模感や人との距離感がちょうどいいですね。イベントや勉強会に行くと誰かしら顔なじみがいるというのも心地いい。
また、髙島市長の後ろ盾も心強いです。県外の方からも、福岡は行政の意識が高く恵まれていると、よく羨ましがられます。

德永さんの今後の展望について聞かせてください。

德永 Code for Fukuokaは市民団体でボランティアベースの活動で、また現在取り組んでいる内容的にもマネタイズは難しいですが、大きな利益を得ないまでも持続できるだけのリソースは確保したいので、現在はソーシャルビジネスについて勉強中です。
それから、イベントや会議の内容を、絵や図などグラフィックに可視化して記録していくグラフィックレコーディングの勉強もしています。
この手法には、話者のモチベーションを高め、不足があればすぐに気づいて補足できますし、共有される内容が濃くなるので聴く側の理解も深まるというメリットがあるんです。
昨年9月に開催されたCode for Japanのサミットでグラレコスタッフとしてお手伝いさせていただいて、イベントや勉強会の効果を上げる重要なツールだと実感しました。
やるからには九州他県にも広めたいので、最近は佐賀や熊本のイベントにもグラレコスタッフとして遠征しています。 

どんどん新しいことにチャレンジされてますね。

德永 興味が止まらないんです(笑) 実はもうひとつ…編み物がしたくて、最近「ものづくり部」も立ち上げました。
「編み物するから集まろう」と言ってもなかなか集まれないので、ファブラボを会場に、ものづくりをしたい人が集まる会です。
グラフィックレコーディングもそうですが、全てがIT化されて効率を求められる時代だからこそ、アナログ的なものとのバランスも大事ですよね。 

やりたいことはまずやってみるという行動力、新しいことへの尽きない興味が、德永さんの魅力なのだとお話を伺っていて感じました。

德永 知ることが、楽しいんですよね。新しいことを知った分、選択肢が増えてベストな決断ができる。
なので気になったことがあれば、まずは知りにいく。情報としてインプットしておいて、ある時「これだ!」とピースがハマるようにつながる瞬間があるとすごく面白い。
この感動は、数学とも似て、私がずっと追いかけたいことなのかもしれませんね。

今後のご活躍も期待しています。本日はどうもありがとうございました!

 

 

<德永 美紗(とくなが・みさ)さんプロフィール>

福岡県生まれ。

2002年:九州大学理学部数学科卒業。
2004年:九州大学数理学府修士課程修了し、研究室でテクニカルアシスタントとして従事。
2007年:株式会社シティアスコムに入社。
2010年:第一子出産。以後、短時間勤務を開始。
2013年:第二子出産。
2015年:総務省らが主催するオープンデータコンテスト福岡にて、「公園ナビ」でアイデア部門優秀賞を受賞。
2018年 :Code for Fukuokaを再スタート、代表に就任。

リンク: Code for Fukuoka

取材・文・写真 : 佐藤 渉

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