山での遭難事故をゼロに! 人の命に関わるエンジニア
株式会社YAMAP 最高技術責任者樋口 浩平さん
公開日:2019.8.6
2012年の「スタートアップ都市宣言」以降、全国から注目を集めるようになった福岡のスタートアップシーン。その中でも、大規模な資金調達に成功し、着実に事業を拡大している期待のスタートアップが、株式会社YAMAPです。最初はマンションの一室で小さく始めた事業が、今や資本金13億円、従業員51人を抱える規模にまで成長しました。最高技術責任者としてYAMAPのサービスを根幹から支える樋口さんに、これまでの歩みやこれからの展望についてお聞きしました。
バイト先のCDショップで、エンジニアリングの面白さにハマった
--今日はよろしくお願いします。樋口さんがエンジニアを目指したきっかけを教えてもらえますか?
僕は芸工大(九州芸術工科大学、のちの九州大学芸術工学部)出身です。芸工大はものづくりが好きな人が集まっていて、僕もご多分に洩れず、コンピューターをいじってCGを作ったりプログラミングをしたり、いろんなことをしていました。そんな時に、バイト先で面白いことがあって。
--ぜひ聞かせてください。
在学中に、西鉄下大利駅の駅前にあるCDショップでアルバイトをしていたんです。ある時、店長がネット通販を始めたいと言い出して。時は1999年、まだEC黎明期です。経験はまったくなかったんですけど、興味はあったので、僕がホームページを作って通販のフォームを用意し、CDのネット通販を始めてみたら、意外なほど売れたんです。とあるバンドのコアなファンの方が協力してくれて、ネット通販のことをファン仲間に宣伝してくれたりして、1日に100万円ぐらい売り上げた時もありました。自分がプログラムしたものが、ちゃんと機能して、人の反響があって、仕事にもなることに感動したのを覚えています。
--なるほど、それがエンジニアの原体験というわけですね。その後は?
卒業後、福岡の企業に就職して、いわゆるSIerの仕事をしていました。ここで、基礎を一通り学んで、少しずつ自信もついてきました。その頃に、代表の春山がYAMAPの構想を話してくれたことがありました。YAMAPは福岡のエンジニア、デザイナーの方にお願いして開発していたのですが、途中から僕も一緒に手伝うことになりました。当時は、昼は会社勤め、退勤してからはYAMAPの開発を手伝って、夜遅くまでやってました。
--そこまで樋口さんを駆り立てた情熱はなんだったんでしょう?
YAMAPのサービス自体が「人の役に立つ」「世の中にとって良いことだ」という確信があったことです。山の中で遭難する人を一人でもなくすという、社会課題を解決するサービスなので、やりがいは大きいです。一生をかけて取り組める仕事だと思いました。周囲からもたくさんサポートを受けられてここまで成長できたのも、やはり人の命を救うサービスだからだと思います。
ユーザーとの出会い、そして気づき
--2013年に社員としてジョインしたわけですね。その後は、順調に拡大していったんでしょうか?
いえ、最初のうちはユーザーも増えず、機能を増やしても反応がなくて、春山とふたり、マンションの一室で悶々としていました。「これでいいんだろうか」と。
--そんな時期があったんですね。どうやって脱したのですか?
あるユーザーさんから、一通のメールが来たんです。その人は登山が好きな50代の男性で、YAMAPのユーザーさんでした。「これを作っている起業家に会ってみたい。飲みに行こう」と誘われて。行ってみると、「この機能は使いやすい」「ここはもっとこうしたほうがいい」とフィードバックをたくさんいただいて、感激しました。僕たちのサービスを、こんなに真剣に考えてくれる人がいるなんて、と。今までは顔の見えない相手に対してサービスを作っていた気がしていたんですが、この時を境に、はっきりと誰に向けて作ればいいのかわかったんです。
--ターニングポイントだったんですね。
はい。ユーザーさんの顔が見えるようになったことで、僕らが作っているのはアプリではあるけど、ユーザーさんにリアルな体験を提供しているということが分かってきました。その気づきがあって以降は、福岡市役所横の広場でイベントを開催したり、ユーザーさんと一緒に山に登ったり、いろんな形で交流して、コミュニティづくりを意識するようになりました。それがサービスの拡大へとつながっていると思います。
登山を終えてから出社する人も
--現在の樋口さんの役割を教えてください。
現在は開発組織をいかにスケールさせて、パフォーマンスを最大化するかが私のミッションです。エンジニアの採用も担当しています。
--エンジニアの採用には苦労していると、企業の方からよく聞きます。
そうですね。当社の場合は、ありがたいことに順調に採用できています。独自性の高い事業内容ということで興味を持ってもらえているのかなと思います。また、YAMAPのカルチャーを理解して入ってきてくれるので、熱量の高い素晴らしいメンバーが集まっています。
--やっぱり山が好きで入社してくる人は多いんですか?
ええ。YAMAPはユーザーファーストを徹底していますので、エンジニアも山に登ります。朝から山に登って出社してくる人もいます。山や自然と街が近い福岡だから、できることかもしれません。
サービスに責任を持ち最後までやり抜きたい
--福岡の街は、エンジニアにとって働きやすい環境でしょうか?
私は福岡にしか住んだことがないので、客観的な視点で語れるかわかりませんが……。移動は楽だし、首都圏と比較すれば生活のストレスは少ないんじゃないかと思います。
--そのぶん、首都圏に比べて情報が少ないとかは、ないんですか?
それもここ4〜5年で変わってきましたね。LINEさんやメルカリさんといった大手が福岡に進出して、エンジニアも多く移ってきていますし、FGN(Fukuoka Growth Next)などでスキルの高いエンジニアの人たちとも交流できます。環境は整ってきていると思います。
--では最後に、今後の展望を聞かせてください。
YAMAPの事業に共感してくれている人がたくさんいます。「あたらしい山をつくろう。」というスローガンを掲げて、山のネガティブなイメージ、危険なことやきついことをテクノロジーで解決し、人と自然が触れ合う機会を増やしていく。その初心を忘れずに、貫いていきたいです。スタートアップベンチャーとして立ち上がった時は、手探りで進めていることが多かったんですが、今はサービスがスケールしてきました。今後はちゃんと収益を上げ、福岡発のスタートアップのロールモデルとなれるように、最後までやり抜きたいです。
--本日はありがとうございました。
<樋口 浩平(ひぐち・こうへい)さんプロフィール〉
2003年3月:九州芸術工科大学大学院修了
2003年4月:ソフトウェア開発者としてセキュリティ製品や各種Webアプリケーションの開発に従事
2012年12月:この頃より、YAMAPサービス開発を手伝う
2013年11月:YAMAPに2番目のメンバーとしてジョインし、システム開発全般を担当
現在はCTOとして開発統括、エンジニアのパフォーマンスの最大化に取り組む
株式会社YAMAP https://yamap.com
取材・文・写真 : 佐藤 渉