INTERVIEW

ITで製造・建設の現場をアップデートー地域産業の再興目指すソフトウェアエンジニアたちの実像

株式会社クアンド テックリード髙野 嵐さん

株式会社クアンド エンジニア新家 遼士さん

左からテックリード 髙野 嵐さん、エンジニア 新家 遼士さん

九州発のスタートアップ・株式会社クアンド。「地域産業・レガシー産業のアップデート」をミッションに、製造や建設、メンテナンスといった現場仕事に特化したビジュアルコラボレーションツール「SynQ Remote(シンク リモート)」を開発しています。

テックリードの髙野嵐さん、エンジニアの新家遼士さんは、プロダクト開発の傍ら、学生向けデジタル人材育成プログラム「DATA ENGINEER CATAPULT」でメンターを務めています。そんな二人に、エンジニアが活躍できる環境づくり、そして、会社の枠を越えた人材育成への思いを聞きました。

遠隔支援コミュニケーションツール「SynQ Remote」とは、どんな課題を解決するプロダクトなのでしょうか?

髙野:さまざまな領域でデジタル化が進む中、製造や建設、メンテナンスの現場はまだまだアナログで、長時間労働や人手不足といった課題が山積しています。特に製造業では、2030年までに、約38万人の人手不足が予想されています。若手技術者の育成は待ったなしの状況です。

「SynQ Remote」は、現場担当者と遠隔地にいる管理者を結ぶ、SaaS型のビデオ通話アプリです。「SynQ Remote」を使えば、熟練技術者が現場の映像を見て的確に指示したり、遠隔地のトラブル対応をリモートで支援したりと、技術継承にも効果を発揮します。

クアンドのエンジニアの皆さんは、どのようにして製造や建設、メンテナンス現場の課題を収集しているのでしょうか?

髙野:お客様の生の声に触れながら、課題の本質をとらえてプロダクト開発をすることを大事にしています。エンジニア自身が現場に足を運びヘルメットを被って、「SynQ Remote」を使っているところを見せていただくこともあります。実際に使われているところを見ると、「ちゃんと現場に根付いてくれているんだ」と、すごくうれしくなりますし、「もっと良くしないと」と気が引き締まります。

クアンドが描く未来に共感し、入社を決意

髙野さんは、クアンドで最年少・最古参のテックリードエンジニアだそうですね。

髙野:いつの間にかそういうことになっていました(笑)。クアンドには、2017年夏からインターンとして働きはじめ、そのまま入社しました。普通に就職活動もしたのですが、クアンドならやりたいことができると実感していましたし、何よりクアンドで働くのが楽しかったんですよね。

代表の下岡純一郎が語る未来にワクワクしたというのも大きいです。下岡は、実家が建設設備業者で、クアンドを起業する前は、P&Gで工場の生産管理や海外工場の立ち上げに携わり、モノ作り現場をつぶさに見てきました。

そんな下岡が、日本の現場力、オペレーション品質は世界でもトップレベルであること、にも関わらず、ITを有効活用できずに人手不足や過重労働といった課題が放置され、成り手も減っていることを教えてくれました。これらの課題を解決し、下岡が実現したい未来を一緒に作れたら面白そうだなと思いました。

新家さんは、なぜクアンドに入社したのですか?

新家:私は、Uターンで中途入社しました。新卒では、いわゆる大企業に就職し、ハードウェアの品質保証に従事しました。でも本当は、ソフトウェア開発がやってみたかったんです。そこで、これを機に挑戦してみようと。

では、夢を実現されたのですね。

新家:そうですね。また、地元の近くで働けることも安心感につながっています。距離って大事だなと思いました。

エンジニアが生き生き働ける環境とは

クアンドでは、エンジニアが働きやすい環境づくりにおいて、どんな工夫をされていますか?

髙野:新しい技術を使いたいとか、新たな設計を試してみたいとか、そういったアイデアや創意工夫は、他のエンジニアも納得できることを大前提に、積極的に取り入れています。

お互いをリスペクトし合えるのも、私たちのいいところです。例えば、インフラがめちゃくちゃ得意な人が「データベースはこう設計するべき」と言えば、「なるほど、そういうふうに考えるんだ」と全員が耳を傾けますし、それぞれの得意領域から積極的にアイデアを出し合えるカルチャーがあります。

さまざまな意見を持ったメンバーをまとめていくために意識していることはありますか?

髙野:エンジニアたちをまとめようとしなくても、同じユーザーを見て、同じ目標を見据えていれば、チームとして成立すると思っています。

新家:少し意見が違ったとしても、ゴールが一緒なので、建設的なディスカッションがしやすいですよね。

髙野:課題に対する認識さえブレていなければ、基本的にはエンジニアが何をしようが、どんなソリューションを使おうが、構わないと思っています。それが、私がテックリードとして最も意識していることかもしれません。

それは、コロナ禍でテレワーク中心となってからも変わりませんか?

髙野:そうですね。テレワーク中心でも、お互いに信頼関係を築き、「あの技術は面白そうだよね」とか「技術的にはこう思っている」みたいなディスカッションで盛り上がっています。

また、週1回オフィスに集まる日(オフィスデー)を作っています。オフィスデーでは、エンジニアだけではなく、カスタマーサクセスチームのメンバーとも情報交換しています。

「お客さまは今こういう課題を抱えている」とか、「エンジニアからしたら課題かもしれないけれど、お客さま視点で見るとそんなに重要じゃないからプライオリティを下げてもいいのでは」とか、お互いの考えを共有しています。

新家:転職してきたエンジニアからはよく、「クアンドは、ビジネスチームとエンジニアチームの距離が近い」と言われます。

私自身、前職では、「自分たちのプロダクトがどう使われているか分からないけれど、とにかく目の前の仕事を一生懸命やる」といった感じで、「お客さまがどんな課題を抱えているのか」「どうしたらもっと良くできるのか」といったディスカッションは、あまりなかったように思います。

小さな組織で、他のチームの仕事が見えるので、それを含めて議論できるというのはあると思います。それも、クアンドの面白いところです。

読書会、コードレビュー、裁量の大きさ――エンジニアの成長を支える3要素

エンジニアの成長やスキルアップという点では、どんな取り組みをされているのでしょうか?

髙野:毎週木曜日は、オンラインで読書会を開催しています。読むのはエンジニアリング本に限らず、UX(ユーザー体験)デザインや開発プロセス、開発組織の作り方など多岐にわたります。みんなで輪読し、それをテーマにディスカッションすることで、理解を深めています。

新家:同じ本でも一人ひとり解釈が違ったりして面白いんです。本から知識を得ることも重要ですが、誰がどう考えたのか知って新たな気づきを得たり、学びを膨らませられるのが大きいです。

コードレビューはどうされているのでしょうか?

髙野:メンター制度というわけではありませんが、一人のジュニアに一人のシニアがついて、しっかりアドバイスできる体制を作っています。ジュニアのコードをシニアが読み込んで、「何のためにこういう実装をしているのか」「ここはこう実装したほうがいいんじゃない?」と、フィードバックすることを大切にしています。「先輩の背中を見て学べ」ではなく、お互いしっかり言語化してコミュニケーションすることが、より良いコードにつながっていくと思っています。

前職の大企業との違いは何だと思いますか?

新家:一人ひとり裁量が大きく、部署の枠を越えて自由に仕事ができることでしょうか。私もエンジニアチームにいながら営業と一緒に商談に行ったり、メンバーの採用に携わったりしています。個人の関心に応じて、いろいろな角度から事業に貢献できるんです。

ボトムアップの取り組みが多いことも特徴です。昨年は、一年掛けてクアンドのバリューを再策定しました。経営陣とは別のバリュー委員会を立ち上げ、全社員でワークショップを開催し、自分たちが大切にしたい価値観について議論していったんです。さらに、バリューを浸透させるため、Slackにバリューノミネートチャンネルを作成。バリューを体現している発言や行動を共有する仕組みを作りました。

髙野:「理想の組織はこれだ」という確固たるものはありません。絶賛模索中です。組織もアジャイルに柔軟性をもって変化させていきたいと思っています。

学生向けデジタル人材育成プログラム「DATA ENGINEER CATAPULT」にメンターとして貢献

お二人は、「DATA ENGINEER CATAPULT」にメンターとして参加されていますね。

新家:はい。昨年の第1回から参加していて、今年で2回目です。参加の目的は大きく2つあります。1つは、福岡でエンジニアを育成すること。もう1つは、エンジニアを志す学生の皆さんに、クアンドを知ってもらうことです。

参加している学生の皆さんは、めちゃくちゃ優秀で、ものすごく吸収が速いです。未経験で参加したのに、プログラムの終盤にはもうかなりのことができるようになっています。「自分が学生のときにあったら受けたかったな」というのが素直な感想です。

髙野:私もです。ウェブ開発の知識が全くない状態から無料で「G's ACADEMY(起業家・エンジニアのための学校)」の講義を受けられるんです。正直、羨ましい。

メンターとして、具体的にはどんな活動をされているんですか?

髙野:技術的なことよりも、顧客目線で何を優先し、どんな思考でプロダクトを作っていくかという観点でメンタリングしています。

実際のプロダクト開発では、「お客さまはこう言っているけれど、課題の本質はそこじゃないよね」といったことが起こります。お客さまの言うことを鵜呑みにせず、課題の本質に近づく思考法、さらに、それをどうプロダクトに落とし込むかといったノウハウを伝えています。

新家:今後は、この活動を通して、クアンドに関心を持ってくれた学生をインターンとしてスカウトしたいです。髙野のようにそのまま社員になってくれたらいいなという気持ちもあります。

また、コロナ禍が落ち着いたら、もっとさまざまなエンジニアコミュニティに参加してみたいです。コミュニティで吸収するだけではなく、積極的に発信し、福岡のエンジニア文化の広がりに貢献していきたいです。


<髙野 嵐(たかの あらし)さんプロフィール>
2017年夏 インターンとしてクアンドに参画
2019年4月 北九州市立大学を卒業し同大学の大学院に進学
2021年4月 北九州市立大学大学院を修了しクアンドに入社

<新家 遼士(しんや りょうじ)さんプロフィール>
2015年3月 北九州高専 制御情報工学科卒業
2015年4月 富士通株式会社入社
2019年7月 Uターンしてクアンドに入社

ライター 酒井真弓

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